【呪術廻戦】五条悟の最期③ 愛を求めたから負けた

 9月25日にジャンプに掲載された呪術廻戦236話にいろいろな意味で衝撃をうけて、1カ月近く気を失っていましたが、その後ジャンプのバックナンバーを読みあさり(5000円以上かかった・・・)、全話を何周もまわって、236話の空港の場面は、五条悟がなぜ負けたのかのアンサーだったのでは、と思い始めています。

 宿儺の指摘する通り、強さと理解者の両方を求めた五条悟は贅沢すぎた、ということでしょう。宿儺との戦いの最中、彼は高専時代とはまったく別の意味で完全に満たされていました。それでもなお、その高揚を伝える理解者を求め続けてしまった。ストイックさに欠けていたことが弱さであり、敗北の原因であり、五条悟の最大の魅力なのだと思います。「……満足ね。背中を叩いた中にお前がいたら満足だったかもな」。今にして思えば、このセリフは、二度と離れていかないように、夏油を引き留めているようにも見える。そういうとこだぞ、ってことなのでしょう。

 存分に自分の力を出し切って戦うこと、心を許した人にそばにいて理解してもらうこと、この二つは本来矛盾しないはずなのに、どうして叶わないのかな。でもそんな弱いキャラのほうが魅力がある。弱さって魅力になるんだ。友情努力勝利のジャンプなのに、これでいいのか!?などと、さまざまな思いが駆け巡っています。

【呪術廻戦】五条悟の最期② 理解者がほしかった

 呪術廻戦のつづきです。その後、五条悟がかなりかわいそうなヤツじゃないかって思って、五条のことをだいぶ好きになりました。

 本編では目隠しが仮面のような役割をしていて、いつも余裕たっぷり、つかみどころがなく、それでいて道化のようで、感情移入のスキがありませんでした。夏のアニメ「過去編」を見ると、まだ「最強」でなかったころの五条の笑顔がまぶしい。サングラス姿の彼は夏油の隣で、自転車の後ろで、傘を握って、笑顔全開、本当に楽しそう。サングラスの奥の青い瞳はやっと心を許せる友達に会えた喜びに満ちています。しかしそんな本心は知らず、夏油は勝手に離れていきました。「君は五条悟だから最強なのか?最強だから五条悟なのか?」。別れ際の言葉がよほどショックだったのでしょうか。「五条悟=最強」という名前そのものが、五条を縛る呪いになっていたのかもしれない、空港で夏油が一度も「悟」と呼びかけなかったので、そんなことを思いました。

 最期の妄想があまりにも甘すぎて夏油のことばかり書いてしまいましたが、空港では七海・灰原も良き仕事をしています。

 236話の最期の空港の描写からわかったこと、それは、五条悟はただ、「弱いヤツは花にしか見えない」「戦闘狂(バトルマニア)」というとんでもない変態(!)な自分でも、惨敗してみなが望む「最強」でなくなっても、「お前がそんなやつだってことはわかってるよ」と笑って受け入れてくれる理解者が欲しかった。さらに踏み込んで言えば、「楽しかった」と他の男のことを身勝手に語っても、辛抱強く瞳の奥をのぞき込んで「君が満足したならそれで良かったよ」と寄り添ってくれる深い愛が欲しかった。それが、全てを持っていると言われた彼のたった一つの望みだったのです。

 家入さんは理解者でしたが、どうやら彼の眼中にはありませんでした(けっこうひどい)。生徒たちが慕ってくれても、心が満たされることはなかった。彼が夏油傑にこだわったのは、ありのままの自分を受け入れて理解してくれた、彼の心が帰る場所だったからです。

「これが僕の妄想じゃないことを祈るよ」。愛に満たされ理解者たちに囲まれた五条悟の最期の言葉。この愛と理解が本当に妄想(本人の思い込み)だったらあまりにもさみしいと、今は思っています。

【呪術廻戦】五条悟の最期① 空港に来た夏油がアンドレだった・・・

 マンガを読んでこんなに頭が混乱するのは2年ぶりです。9月末にジャンプを読んで以来、ほかのことが手につかないほど心が乱れていろいろ差し支えているので、頭を整理するために、久しぶりにこのブログに向かうことにしました。

 

■五条悟が死んだ月曜日

 すでにあらゆるところで話題になっているのでご存知の方が多いと思いますが、ジャンプに連載中の「呪術廻戦」236話(2023年9月25日発売)で、作中「最強」の五条悟が、呪いの王「宿儺」に負けて死にました。私はコミックス派なので、ジャンプはリアタイしてないのですが、その週はたまたま家族が買ってきて横で読んでいました。私自身は読むつもりはなかったのですが、「ヒッ」と悲鳴をあげて家族がジャンプに突っ伏したので、イヤ~な予感がして、つい火曜の朝に一人で開いてしまいました…それが混乱の始まりです。

 まず思ったのは、これは現実だろうか、ということです。最強、最強と言われたごじょセンの惨敗と無残な死に様に多くの人が衝撃を受けたようですが、私が衝撃を受けたのは、それだけではありません。冒頭から描かれていた五条悟の死に際の「妄想」に、ものすごいショックを受けたのです。

 

■これ、ジャンプだよね?


冒頭から、「や」と言って現れたのは、私の最推しの高専時代の夏油傑。めっちゃ笑顔です。まずこれだけで、公式による何のごほうび回が始まったのかと身構えました。そして会話から、どうやら死後の世界が舞台のよう。この時点で、???ごじょセン負けて死んだ???ですが夏油の笑顔に引き込まれます。「俺の妄想であってくれよ」と、五条が「俺」という高専時代の言葉をつかって、リラックスしてるのがいい。「君(きみ)」とよびかける夏油の声が優しげ(想像)。夏油は死んだ後も、五条をずっと見守ってくれていたようです。学生服姿の二人だけの会話が5ページ続きます。その会話が…なんというか、私の白昼夢か妄想かと思いました。

 五条が語るのは強者ゆえの孤独と最強同士の戦い。そして今は宿儺に申し訳なさすら感じているというのです。「孤高の侘しさは誰よりも共感できるつもりだ。みんな大好きさ。寂しくはなかった。でもどこかで人としてというより生き物としての線引きがあったのかな」。これは「五条先生」としては言ってはいけないことで、誰にも明かしてこなかった五条悟の本音なのでしょう。ここのコマで夏油が目をそらすところ、曇った顔、「……」という吹き出し。「ああ、やっぱりそんなことを考えていたのか」「やはり自分では五条悟に釣り合わないんだな」と悟った表情に見えます(私には!)。

 夏油の気持ちなどお構いなしに、五条の残酷な語りが続きます。五条にとって周囲の人は生き物としてカテゴリーの異なる「花」に見えていたというのです。「花に自分を分かってほしいなんて思わないだろ」「宿儺にはすべてをぶつけた」「全部伝えたかった。伝わって欲しかった」。

 真意を理解しようと、夏油が横から青い瞳の奥をじっと見つめているのがわかります。五条はその目線には気づかないで自分の思いに没頭している。「…楽しかったな」。夢見るような瞳、まつげバサバサの美しい横顔の描写は、夏油の目に映った五条の姿なのでしょう。悟よ、キミは残酷なやつだ。こんなにキミを理解しようと努めてる男の隣りで、「あいつにだけはわかってほしかった」なんて他の男の話をするんだからな…って、この時点で、これは明らかに恋愛マンガなんだよ!

 そして極めつけが、夏油のセリフ。「…妬けるねえ。でも君が満足したならそれで良かったよ」!!!!(赤面)おいおいおい!こんなことただの「親友」が言うかあ? これは、少女マンガにたまに登場する「選ばれないと分かってる男」もしくは「自分が本命だと気づいてない男」の吐く理解と苦悩の愛の言葉です。これジャンプだよね?「別マ」じゃないよね? 日本で一番人気の少年マンガ「呪術廻戦」だよね? 堂々とBL展開してる!?コイツは妄想の中で夏油に何を言わせてるんだ。これじゃ夏油がアンドレじゃん。そういえばオスカルが死んだ時にアンドレ迎えに来てたもんなあ。0.2秒の間に大量の情報が脳に流れ込み大混乱。

 「……満足ね。背中を叩いた中にお前がいたら満足だったかもな」。そうなんだ、ごじょセンは死地に向かう時に「夏油がそばにいて応援してくれていたらなあ」って考えてたんだね。しかしよくよく考えると「宿儺への君の思いに嫉妬する」あるいは、「君を満たした宿儺に嫉妬する」と言ってる夏油に対し「お前がいないと自分は満たされない」と答えているようにも読めます。そして、もう「敵わない」とでも言うように、ははっと笑って夏油は下を向いて涙ぐむのです…

 これを「友情」とジャンプが言い張るならそれでもいい。しかし、腐った私には刺激が強すぎて脳が焼き切れました。ヒロインと彼がお互いの気持ちを確認し、「これからはずっと一緒だね」と結ばれるときの少女マンガのヤマ場にしか見えない!あとこの回の夏油が・・・異様にかっこいい。色気がやばい。青春時代にこのお兄さんに甘やかされたら感覚がおかしくなりそう。

 なんの準備もなく、すごいものを見てしまった。これが私の妄想ではなくて、他ならぬ五条自身の「僕の妄想」、つまり心の奥に隠された本当の願いだというのだから、もう逃げ場がないよ…。全体的には絵もセリフも非常に丁寧に描かれていました。思いつきで描かれた場面ではなく前から考え抜かれ、多くの人の手を経て洗練された印象。

  それで、私も夏油好きだけど、悟もやっぱり夏油が好きだったのね、と明らかに場違いな共感で胸がいっぱいに。阿鼻叫喚の嵐の中、この回読んで、こんな気持ちになったのは、世界で私一人だけですね、きっと。

素晴らしき少女漫画「消えた初恋」勝手に名場面集(その1)

 日曜の朝4時半から起きてこのブログを書かずにいられない私は、相当に脳が毒されています。しかし、好きなことを書く喜びは、本当に何にも勝るんだな。「消えた初恋」既刊7巻までの名場面集に行かせてください。時系列で進みまーす!

 

 

◇「だって一緒の気持ちだもん」(高校2年の秋、1巻)

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 ここまで橋下さんのこと書かずにきてしまいました。最重要キャラなのに・・・すみません。1巻は、真面目な井田くんの勘違いとすれ違いコントに爆笑ですが、私が好きなのは青木が自分の気持ちに気付いたあと、橋下さんと公園で語り合う場面。「イダじゃなくてアイダ」だったという消しゴム落ちもさることながら、橋下さんの「だって一緒の気持ちだもん」の一言で、読者の青木への共感度数が一気に上がる気がする。井田くんも橋下さんも、わりとすんなり青木の恋心を受け入れて肯定することで、この漫画の「優しい世界観」の7割は完成しているのではないでしょうか。こんなにいい子の橋下さんが恋のライバルでなかった斬新な展開にも、心底ほっとしました。

 

◇井田くんの家で勉強会(高校2年の秋、2巻)

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 自分の気持ちを告白した後に、返事は保留のまま、その相手の部屋に二人だけの状況になったら、どんな気持ちになるのでしょう。頭まっしろになるのは間違いなし。相手が無関心に見えたら、ますます空回りしそうです。ところが・・・

 消しゴム事件に動揺し、小テストで5点になってしまった青木のために、井田くんの家であっくん、橋下さんとともに4人の勉強会が開かれます。この時点では、青木は井田くんに、橋下さんはあっくんに片思い中。井田くんからは青木に対し、「最近お前の事ばっか考えてる」と意識しているような発言が・・・・このあたりから、青木の恋、まさか脈があるのか、と思い始めました。てか、井田くん、初めて告白された、その相手がいい奴だった、って理由だけで軽々と性別を超えてくる。ピュアすぎというか、さすが新世代。素晴らしき令和の少女漫画の世界。

 

◇スパルタスキー合宿(高校2年の晩秋、3巻)

 

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ドラマでは林間学校にアレンジされて、かなりなかなか神回でしたが、原作の北海道スキー合宿も面白かった。スキーの実力ですべてが決まる・・・青木と橋下さんは当然のように一番下のDクラスで「部屋は牢獄、お風呂がいつも最後」「再試験で雪だるま」とか、ベタベタの展開です。好きというのは誤解だった、と井田くんに言ってしまった後の青木が、勇気を振り絞って、自分の本当の気持ちを伝えます。私としては「己の弱さに向き合え!」という「スキー占い」からこの告白に至る流れが、なんで??無茶苦茶やん、と思いつつ、青木の頑張りとそれを受け止める井田くんの優しさに、感動してしまいました。

(つづく)

祝小学館漫画賞受賞 「消えた初恋」について心ゆくまで書きたい(2)

■コミックス派のみなさま ネタバレ厳重注意■

 この作品の魅力をさらに語っていきますが、私、本誌(別冊マーガレット)にも手を出しているため、こちらに、2022年3月発売予定の8巻の内容も含んでしまっています。コミックス派の方はネタバレ厳重注意です!

 

◇変わっていく二人の関係を語らせてくれ

 

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すべてのきっかけは消しゴムから=消えた初恋1巻より

 青木が「イダくん♡」と書かれた橋下さん(青木の初恋の相手)の消しゴムを落とし、それを見た井田くんの「青木はどうやら俺のことを好きらしい」という誤解から話が始まります。恋愛対象として真剣に考える井田くんに大混乱する青木。クラスメートとしてしか知らなかった井田くんの誠実さに気づき、惹かれるようになります。

 

◆ラブコメの教科書展開
 無謀に思われた青木の片思いがかなう4巻が一つの区切りでしょうか。旅行に行ったらダブルベッドしかないとか、ラブコメの教科書みたいな王道なのですが、前回さんざん書いたような二人の魅力と、けんかしてもすぐ仲直りする明るさ、イヤな奴が1人も出てこない優しい世界観で、ププっと新鮮に、軽やかに話が進みます。

 6巻までは青木から「行きたいとこあるわ」「(クリスマスケーキ)一緒に食う?」「(頬にキス)してみるか!」などとアプローチしています。井田くんは、恋愛経験のなさからどうしていいのかよくわからない受け身の姿勢。青木に勢いで抱きつかれても(うれしいことがあるとすぐに抱きつく)、動揺したり背中をポンポンたたくだけで、背中に腕を回すことはありません。少女漫画の世界のルールに従って、恋愛のステップを順を追って描いていこうという「消えた初恋」の世界。男の子同士ということもあり、一歩を踏み出す壁はかなり高く、前半は非常にプラトニック。「奇跡の片思い派」としてはそこがいいんだな。「人を好きになるってなんだろう」がテーマになっています。

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この提案はかなり恥ずかしい。がんばれ青木!=消えた初恋6巻より

◆変化は京都旅行から

 そして6巻時点では「フェアじゃねー」という青木の抗議に、「次は俺から(キス)するな」と責任感が前面に出ているような様子の井田くんですが、7巻の京都旅行から潮目が変わります。旅行の後になって、「一緒の大学行こうぜ」と初めて井田くん側からのリクエストがあるのです。

 ここら辺、最初に読んだときは、前夜の出来事(ナゾの妖精出現)の衝撃で読み落としていたけど、よく考えたら「一緒の大学に行こう」ってけっこう重い提案ですよね。大学受験や就職活動を理由に振られた経験のある私としては、こんなこと言われてみたかったな~とか思ったり。

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エロいことしなかったせいで旅館に妖精?が出現。翌日井田くんに変化が・・・
=消えた初恋7巻より



◆最近の井田くんにニヤニヤが止まらない

 その後は、「付き合ってると言いたい」「いまキスしたい」「他の男にちょっかい出されたくない」「自分の部屋でもっと一緒に過ごしたい」「親に恋人として紹介したい」とうぶ(初心LOVE!)な青木も、読んでる私もワタワタの、まさかの井田くん→青木の大展開。プラトニックな世界は溶け始め、この先どういう流れになるのかはほぼ自明で、ヤバいです、もうニヤニヤが止まりませんっ…!

 

続いて恒例の、勝手に名場面集に行きたいと思います。誰にも頼まれてないけど、書かずにいられないんだよな…。

 

祝小学館漫画賞!「消えた初恋」について心ゆくまで書きたい(1)

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=消えた初恋6巻より
 

 小学館漫画賞の受賞おめでとうございます! ドラマが良かったのでついうっかりとページを開いてしまってから、あっという間に陥落、書かずにいられなくなりました。すでに著しく業務に支障が出ている…気持ちを落ち着かせるためにも、久しぶりに更新します。
 

【作品概要】
「消えた初恋」原作:ひねくれ渡 作画:アルコ
2019年6月「別冊マーガレット」にて連載開始
2021年10月からTVドラマ化

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別冊マーガレット公式サイトより

 

◇トキメキの王道「奇跡の片思い」

 漫画でもドラマでも小説でも、私好みの恋愛物語は、

【その1、身勝手愛され型】すんごくいい男に死ぬほど愛されているのに気づかない、もしくは自分の心の中にはほかの男がいる(ベルバラ、天華、直虎…)

【その2、奇跡の片思い型】絶対無理な相手への片思いがかなう(イタズラなKiss、NANA、椿町ロンリープラネットおっさんずラブ…)

 (このほか、【恋人のふりや夫婦になってから好きになっちゃった型】もあるけど、これは大きく言えば【その2】に入るでしょうか。)

 そしてこちら、「消えた初恋」は、トキメキの王道「奇跡の片思い型」の作品です。ごく普通に女の子に恋してた主人公の男子高校生・青木が、おバカなきっかけで、前の席の井田くんの人柄を知り、好きになってしまう。到底無理かと思われていた片思いですが、井田くんには(おそろしいほど)偏見がなく、まさかまさかの脈ありの様相…

 「別冊マーガレット」を毎月買うのって、「イタズラなKiss」の連載が急に終わっちゃって以来だから、20年以上ぶりです。その間に、男の子同士の恋愛が別マに載るような時代になったんですね。この作品の場合には、ネーム担当、作画担当と分かれ、さらに人気雑誌の編集者の手も入ることで、多くの人の共感を得る良質なストーリーになっています。

 個人的には、読んでると妙に、高2のときに初めてできた彼氏との日々を思い出す・・・って、考えてみたら男の子同士の恋愛に自分を重ねるというのもおかしなことですが。まあ、ごちゃごちゃ書きましたけど、要するに「これってデートなのかな。相手は楽しいのかな」「手をつないだら気持ち悪いと思われないかな」っていう主人公・青木の悩みは、性別年齢関係なく、その気持ちスゲーわかるわ状態になるってことです。そして、この漫画のすごいところは、井田くんが常に想定以上の優しさで応えてくれるってこと。片思いの末に勇気を出して良かった、やっぱり人を好きになるのっていいな~となりますよね。そうやって、まず読者の心を満たしておいて、最近は関係が進み、何やらちょっとエロい感じ。さらにいいぞ!

 

◇井田くんかっこいい!

 この漫画読んで、井田くんに惚れない奴いる?いねーよなあ。マイキーもお墨付きを与えることでしょう。
 集英社の担当編集・澤田さんへのインタビュー記事

https://news.livedoor.com/article/detail/20451392/

で、「短髪の男の子をカッコよく描ける少女漫画の作家さんにお願いしたいというこだわりがあった」って理由で、アルコさんに作画を頼んだ、と書いてありましたけども、大大大正解ですよね。上から目線すみません。アルコさんの絵が、本当にかっこいいのよ。「俺物語!」の時から、砂川くんカッコ良すぎとは思っていたけれども…

 でもまあ、少女漫画なんだから、見た目かっこいいの当たり前、というアナタ。
井田くんは性格も男前なうえに、地味にハイスペックです。その上、実はさみしがりって、おいおい…マジで息子にしたい。16歳までだれにも告白されてない、って設定なので、東ケ丘高校の女子生徒はどんだけ見る目ないんだよと突っ込みたくもなりますが、作品内ではちゃんと理由が明かされています。(7巻の「小劇場 うちのクラスのモテ事情」)
 そう、彼はちょっと変わってます。「クソ真面目」って公式に書かれてるけど、もし、イマドキの少女マンガの男女の恋愛の相手役だったら、Sっけと黒要素がなさすぎて物足りないのかもしれない。

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 ところが、この作品では、この一見して融通のきかなそうな真面目な井田くんが、同性の青木からの告白を真剣に受け止め、恋愛対象として考え始める。青木は男の子です。生物学的には井田くんの子孫を残すことはできません。しかし彼は性別や世間の目を超えて、自分を好きだという青木を、その心だけを、まっすぐに見つめるのでした。

 

◇青木かわいい

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かわいいと変顔しかない初心LOVEな主人公=いずれも消えた初恋4巻より

 で、そんなかっこいい井田くんに惚れるのが青木。こんなに変顔できる少女マンガの主人公もめずらしいドジっ子です。目が大きくて、ふんわりした髪は中性的。表情がくるくる変わります。家族に愛されて育った弟キャラ…アホな顔とかわいい表情しかない
 青木が女の子だった場合、王道のラブコメすぎて、ここまで好きにならなかったと思います。青木が男の子であることで、恋愛成就のあとに続く結婚妊娠出産、子育てとキャリアどうする、とかいうクソつまらん現実の縛りから解放されて、京都で暮らす、二人の幸せな未来を心置きなく思い描ける気がする…。(だって、【奇跡の片思い型】の漫画って、たいてい結婚してるじゃん!)あとは、女の子が主人公だと、シチュエーションがうらやましすぎて時々イラッとすることがあるんですよ。こんな女の子がこんないい男(だいたい複数人)から好かれるわけない…とか思い始めたら、もう心に響いてこない。子犬である青木のことは、ノーストレスで応援できます。(←ひどい?)

(つづく)

 

江森三国志ファンの私が「特別展 三国志」に行ってきました~

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5巻冒頭に登場したあの金印が…

 

 江森備さんの歴史小説「天の華 地の風」にはまりまくっている私が、現在東京・上野のトーハクで絶賛公開中の「特別展 三国志」に行って参りました。仕事のどさくさ紛れです。お客さんの中に、私と同じことで喜んでいる人が0.01%くらいはいるのでしょうか…

 

以下、概要

 ■特別展 三国志 9月16日まで。東京・上野の東京国立博物館 平成館。午前9時半~午後5時。一般1600円。10月から九州国立博物館(福岡県太宰府市)に巡回予定。

  約160点にわたる展示の目玉は、なんと言っても中国国外初公開という曹操の墓(曹操こうりょう)からの出土品だそうです。確かに凝った展示。実物を模した曹操のお墓に置かれた白い壺がリアルです。

 

 入るとすぐに青銅製の関羽像が出迎えてくれるのですが、さすがの威厳。なんか謝りたくなってきました。関聖帝君さま、妄想爆発ですみません…

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世界屈指の「美関羽像」だそうです

  

 江森先生が「天華」を書くきっかけになったという川本喜八郎さんの人形たちも展示されていました。孔明と猛獲が並んでいます。周瑜じゃなかったよ。どこを探しても周瑜の人形はなく、ちょっと残念。実物を見て江森先生と同じインスピレーションを感じてみたかったあ 

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江森先生が出会ったのがこの並びだったら、まったく違うエキゾチック三国志爆誕してたのでしょうか

 

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うんちくもあって楽しい

 

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後漢時代末期の涼州騎兵 あんまり強くなさそうだけど…

  

 なんと言っても私がコーフンしたのは、亀をかたどった「関内侯印」の金印です。小さな金印は5巻「明かき星 天狼を見よ」で重要な役割をします。こんなところでお目にかかれるとは。

 「かれは身に帯びた印綬を示した。純金の正方形。一寸ほどの小さなものである。亀の形の鈕(つまみ)がついていて、それに紫の綬(きぬひも)を通して帯にくくりつけてある。衛兵は、さっと拱手した。亀鈕紫綬金印の持ち主といえば、ここでは数人しかいないのだ」

 

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ピカピカ~

  つまみは確かに亀です。小さいけどピカピカ。魏延の卓から落ちたら「ごとり」というのかな。1800年の時を経て今目の前に〜

 

 と妄想が進みましたが、残念ながら、こちらは孔明のものではありません。持ち主は不明。山東省からの出土品。特別展の図録よると「関内侯」とは皇帝、諸侯王、列候に次ぐ身分だそうです。蜀では、関羽張飛趙雲孔明は列候で、その下の関内候は黄中だとか。つまり、孔明の金印には「列候印」、もしくは作中にあるように「武郷候印」

と書かれているはずってことでしょうか。

 

 孔明のものじゃないとわかっても、妄想には役立ちました。ありがとう「特別展」!

 

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横山先生の三国志グッズが充実

 最後に、横山先生のマンガ「三国志」グッズを買い占めて帰りました。


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特に司馬懿仲達の「待てあわてるな これは孔明の罠だ」のマグネットがお気に入り。仲達については天華では小林智美さんの美麗なイラストがないせいで、私の脳内では、横山先生の作画に変換されているのです。